「手当」は会社にキャッシュを残す(2025.3.20)
社労士 社長、御社の給与は「基本給」のみで、手当が何もないんですね?
社長 結局同じだけ払うんだから、いちいち手当に分けるのも面倒だろう。
小規模な会社さんでよく見かけるのですが、給与が「基本給」1本で構成されており、手当が何一つない場合があります。
実は社会保険料や残業代の計算ルールに照らすと、こういう構造の給与は会社からキャッシュが出て行ってしまいます。
例えば、残業代の計算で考えてみましょう。
月に21日、一日8時間とすればひと月の労働時間は168時間ですね。
これを前提に残業単価を計算すると、給料が基本給1本の30万円の時は
30万円÷168×1.25=約2232円
これが残業単価になります。
同じ30万円でも、
基本給 26万円
住宅手当 3万円(家賃の3割)
家族手当 1万円(配偶者分)
このような場合は、住宅手当や家族手当は残業代の計算基礎に入らないので、
26万円÷168×1.25=約1935円
残業単価は先ほどと比べて297円下がっています。
仮にひと月に30時間残業が発生したら、297円×30時間=8910円の差が付くわけです。
1年で10万6920円、
もし5人が対象なら53万4600円もの差額になります。
そんなことを10年も続ければ534万6000円会社キャッシュに差が付きます。
手当というのは、従業員のどのような属性、どのような責任、どのような働きに会社がお金を払っているのか明示するものです。
それ自体がある種の労使コミュニケーションです。
基本給1本にしている会社さんでも、その人の何をどう評価したのかという評価ポイントはあるはず。
そして、そのお金で従業員に生活を支えてもらい、休養を取り、家族を養ってもらおうという意図も必ずあるはずです。
その評価基準や意図が明示的に手当として表現されていると、手当によっては、上記のように残業代を考えるときに計算基礎から外してよいという扱いになるわけです。
税金の場合だって、通勤手当には非課税枠がありますから、もしこれを基本給に繰り込んでしまっていたら、通勤手当分のお金にも税金がかかるという話になってしまいます。
社会保険料は計算基礎から除ける手当は多くありませんが、「社宅」のように現物給付をした場合には、会社が負担した家賃の一部だけが社保の対象になるといった、会社にキャッシュを残せるルールはあります。
そういう訳で、手当項目というのは会社キャッシュ、労使コミュニケーションなど様々な角度から見て、なるべく設けておくのが正解なのです。
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